この記事では、公的介護保険の特徴について紹介しています。適用される介護サービスや、申請の手順・申請の際の注意点等も紹介しているので、手早く知りたい方々におすすめです。
公的介護保険の仕組み
公的介護保険制度は、介護を必要とする人の介護環境充実のために創設された公的制度です。本制度は、介護を必要とする人を社会全体で支え合う仕組みとなっています。
社会全体で高齢者介護を支える仕組み
出典:厚生労働省「介護保険制度の概要」
公的介護保険は、1997年の国会で制定された介護保険法を基に、2000年4月1日から施行されました。介護保険の保険者は、市町村・特別区(広域連合を設置している場合は広域連合)になります。
公的介護保険を利用すれば、さまざまな介護サービスを1~3割負担で受けられます。公的介護保険給付の財源は国・地方自治体・国民が分担する仕組みです。財源は税金・保険料でまかなわれます。下表をご覧ください。
項目 | 税金 | 保険料 |
---|---|---|
負担割合 | ●市町村:12.5% ●都道府県:12.5% ●国:25% | ●第1号被保険者:23% ●第2号被保険者:27% |
合計 | 50% | 50% |
公的介護保険の財源負担は税金50%・保険料50%となっています。
介護保険料は40歳から納付が必要
介護保険料は40歳から徴収され、40歳から64歳までは「第2号被保険者」として健康保険料と共に納付する必要があります。
国民健康保険の加入者(給与所得者以外)は「国民健康保険料+介護保険料」が徴収され、協会けんぽや健康保険組合の健康保険加入者(給与所得者)は「健康保険料+介護保険料」を毎月の給与から差し引きます。
一方、原則として年金支給が開始される65歳以上の人は「第1号被保険者」となり、個別に「介護保険料」として納付または天引きされます。
要支援・要介護状態ごとの現物給付および支給限度額
公的介護保険は要支援1・2、要介護1〜5の7つの介護区分があります。それぞれの要支援・要介護度によって公的介護保険の現物給付内容や、1ヶ月の支給限度額が異なります(2019年10月以降)。
要支援・要介護状態 | 公的介護保険が適用される給付内容 | 1ヶ月の支給限度額 |
---|---|---|
要支援1 | 基本的に週2~3回の現物給付 ●訪問型サービス:週1回 ●通所型サービス(デイサービス等) ●施設の短期入所:月2回 | 50,320円 |
要支援2 | 基本的に週3~4回の現物給付 ●訪問型サービス:週2回 ●通所型サービス(デイサービス等) ●施設の短期入所:月2回 ●福祉用具貸与(歩行補助つえ等) | 105,310円 |
要介護1 | 基本的に1日1回程度の現物給付 ●訪問介護:週3回 ●訪問看護:週1回 ●通所系サービス:週2回 ●施設の短期入所:3ヶ月に1週間程度 ●福祉用具貸与(歩行補助つえ等) | 167,650円 |
要介護2 | 基本的に1日1~2回程度の現物給付 ●訪問介護:週3回 ●訪問看護:週1回 ●通所系サービス:週3回 ●施設の短期入所:3ヶ月に1週間程度 ●福祉用具貸与(認知症老人徘徊感知機器等) | 197,050円 |
要介護3 | 基本的に1日2回程度の現物給付 ●訪問介護:週2回 ●訪問看護:週1回 ●通所系サービス:週3回 ●夜間の巡回型訪問介護:毎日1回 ●施設の短期入所:2ヶ月に1週間程度 ●福祉用具貸与(車イス、特殊寝台等) | 270,480円 |
要介護4 | 基本的に1日2~3回程度の現物給付 ●訪問介護:週6回 ●訪問看護:週2回 ●通所系サービス:週1回 ●夜間対応型訪問介護:毎日1回 ●施設の短期入所:2ヶ月に1週間程度 ●福祉用具貸与(車イス、特殊寝台等) | 309,380円 |
要介護5 | 基本的に1日3~4回程度の現物給付 ●訪問介護:週5回 ●訪問看護:週2回 ●通所系サービス:週1回 ●夜間対応型訪問介護:毎日2回(早朝・夜間) ●施設の短期入所:1ヶ月に1週間程度 ●福祉用具貸与(特殊寝台、エアーマット等) | 362,170円 |
参照:公益財団法人 生命保険文化センター
なお、介護を必要とする人の自己負担額は1~3割です。
公的介護保険給付が適用される介護サービス
公的介護保険の給付対象となる介護サービスは、訪問サービスや介護施設への通所・入所サービスと多岐にわたります。
自宅で利用可能なサービス
訪問介護・訪問看護・福祉用具貸与があげられます。
給付対象となる介護サービス | 内容 |
---|---|
訪問介護 | 訪問介護員による訪問サービス ●入浴・排泄介助 ●食事・調理介助 ●洗濯・掃除の家事等 |
訪問看護 | 看護師等による訪問サービス ●日常生活の援助(清潔ケア・排泄ケア等) ●医師の指示による必要な医療の提供 |
福祉用具貸与 | 介護が必要な人の状態に合わせた福祉用具のレンタル ●認知症老人徘徊感知機器 ●車イス ●特殊寝台 ●エアーマット 等 |
参照:厚生労働省「介護保険制度について」
日帰りで施設等を利用するサービス
通所介護・通所リハビリテーションが該当します。
給付対象となる介護サービス | 内容 |
---|---|
通所介護(デイサービス) | 介護が必要な人の機能向上を図るサービス ●食事や入浴等の支援 ●心身の機能の維持・向上を図る機能訓練 ●口腔機能向上のサービス等 |
通所リハビリ テーション (デイケア) | 介護が必要な人の心身機能の維持回復を図るサービス ●施設や病院等のリハビリテーション(理学療法士、作業療法士、 言語聴覚士等が対応) |
参照:厚生労働省「介護保険制度について」
宿泊・居住・施設を利用するサービス
短期入所生活介護・介護老人保健施設等を利用できます。
給付対象となる介護サービス | 内容 |
---|---|
宿泊サービス | 短期入所生活介護(ショートステイ)のサービス ●食事や入浴等の支援 ●心身機能の維持・向上の機能訓練支援 等 |
居住系サービス | 特定施設(有料老人ホーム等)入居者生活介護 ●日常生活の支援 ●介護サービス利用 |
施設系サービス | (1)特別養護老人ホーム 原則として要介護3以上の人が対象。 食事、入浴、排せつ等の介護を一体的に提供する。 (2)介護老人保健施設 自宅で生活を営めるようにする支援を必要とする人が対象。 看護・介護・リハビリテーション等のサービス、日常生活上の 介助を提供する。 |
参照:厚生労働省「介護保険制度について」
その他に利用可能なサービス
小規模多機能型居宅介護や定期巡回・随時対応型訪問介護看護が該当します。
給付対象となる介護サービス | 内容 |
---|---|
小規模多機能型居宅介護 | 介護が必要な人の選択に応じ施設の通所、短期間宿泊、自宅訪問を 組み合わせ、日常生活上の支援・機能訓練を行う。 |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 定期的な巡回・随時通報をはじめ、心身の状況に応じた24時間 365日必要なサービスを柔軟に提供する。 訪問介護員・看護師等が連携し介護・看護の一体的なサービスを 受けられる。 |
参照:厚生労働省「介護保険制度について」
公的介護保険の自己負担割合と介護保険料
公的介護保険を使って介護サービスを受ける場合、介護が必要な人も1~3割を自己負担をしなければいけません。また、第1号被保険者を対象として年間に支払う介護保険料額は、各市区町村によって異なります。
介護保険は1割~3割が自己負担
公的介護保険を使って介護サービスを受ける場合、かかった費用の1割~3割を自己負担する必要があります。自己負担割合は所得条件で次のように区分されます。
自己負担割合 | 所得区分 |
---|---|
1割 | 2割負担・3割負担対象外の人 |
2割 | 次の(1)(2)両方を満たす人 (1)介護を必要とする本人が65歳以上かつ合計所得金額:160万円以上 (2)「本人を含め同一世帯の65歳以上の人の年金収入」+「その他の合計所得金額」 が次の場合 ●1人:280万円以上 ●2人以上:346万円以上 |
3割 | 次の(1)(2)両方を満たす人 (1)介護を必要とする本人が65歳以上かつ合計所得金額:220万円以上 (2)「本人を含め同一世帯の65歳以上の人の年金収入」+「その他の合計所得金額」 が次の場合 ●1人:340万円以上 ●2人以上:463万円以上 |
参照:厚生労働省「介護保険制度の概要」
第1号被保険者の介護保険料
介護保険料は各市区町村で異なりますが、概ね11~16段階に区分されます。なお、介護保険料は3年ごとに見直されます。こちらでは例として、東京都中央区の介護保険料額をみてみましょう(令和5年4月改定分)。
所得段階 | 対象者 | 保険料率 | 年間保険料額 |
---|---|---|---|
第1段階 | ●生活保護世帯 ●本人・世帯全員区民税非課税 ●老齢福祉年金受給者 ●前年の合計所得金額+課税年金収入額が80万円以下 | 基準額×0.25 | 17,760円 |
第2段階 | ●本人・世帯全員区民税非課税 ●前年の合計所得金額+課税年金収入額が80万円超~ 120万円以下 | 基準額×0.45 | 31,920円 |
第3段階 | ●本人・世帯全員区民税非課税 ●前年の合計所得金額+課税年金収入額が120万円超 | 基準額×0.70 | 49,800円 |
第4段階 | ●本人は区民税非課税・世帯員に市民税課税者あり ●前年の合計所得金額+課税年金収入額が80万円以下 | 基準額×0.90 | 63,960円 |
第5段階 | ●本人は区民税非課税・世帯員に市民税課税者あり ●前年の合計所得金額+課税年金収入額が80万円超 | 基準額 | 71,040円 |
第6段階 | ●本人に区民税課税 ●前年の合計所得金額が120万円未満 | 基準額×1.15 | 81,720円 |
第7段階 | ●本人に区民税課税 ●前年の合計所得金額が120万円~210万円未満 | 基準額×1.22 | 86,640円 |
第8段階 | ●本人に区民税課税 ●前年の合計所得金額が210万円~320万円未満 | 基準額×1.45 | 102,960円 |
第9段階 | ●本人に区民税課税 ●前年の合計所得金額が320万円~370万円未満 | 基準額×1.50 | 106,560円 |
第10段階 | ●本人に区民税課税 ●前年の合計所得金額が370万円~500万円未満 | 基準額×1.70 | 120,720円 |
第11段階 | ●本人に区民税課税 ●前年の合計所得金額が500万円~750万円未満 | 基準額×2.00 | 142,080円 |
第12段階 | ●本人に区民税課税 ●前年の合計所得金額が750万円~1,000万円未満 | 基準額×2.30 | 163,440円 |
第13段階 | ●本人に区民税課税 ●前年の合計所得金額が1,000万円~1,500万円未満 | 基準額×2.60 | 184,680円 |
第14段階 | ●本人に区民税課税 ●前年の合計所得金額が1,500万円~2,000万円未満 | 基準額×2.90 | 206,040円 |
第15段階 | ●本人に区民税課税 ●前年の合計所得金額が2,000万円~2,500万円未満 | 基準額×3.30 | 234,480円 |
第16段階 | ●本人に区民税課税 ●前年の合計所得金額が2,500万円以上 | 基準額×3.70 | 262,800円 |
公的介護保険の認定申請の流れと必要書類
公的介護保険を利用したい場合は、お住まいの市区町村で申請し、要支援・要介護の判定を受ける必要があります。
認定申請の手順
申請から要支援・要介護認定を受けるまでの流れは、次の通りです。
- お住まいの市区町村の窓口(介護保険課等)で申請
- 認定調査員が認定調査を行う
- 主治医が意見書を作成
- 調査結果・主治医意見書の2つから要支援・要介護度を判定
- 認定結果を本人に通知
およそ30日程度で要支援・要介護認定の結果がわかります。
認定申請の際の必要書類
主に提出を要求される必要書類は次の通りです。
- 要介護認定申請書:市区町村役場またはホームページ等で取得
- 主治医意見書:医師から作成してもらう
- 介護保険の保険証
- 医療保険証(※40~64歳の人が申請する場合)
- マイナンバー(個人番号)が確認できる書類・カード
- 印鑑
公的介護保険を65歳未満の方が利用できるケース
公的介護保険は基本的に65歳の人が対象となります。ただし、特定疾病を発症した場合は65歳にならなくても公的介護保険が利用できます。
特定疾病とは次の16の疾病が該当します。
- がん(医師が医学的知見に基づき、回復の見込みがない状態と判断した場合)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病(パーキンソン病関連疾患)
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
出典:厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
いずれも生命・身体に深刻な影響を及ぼす疾病といえます。
公的介護保険を利用する際の注意点2つ
公的介護保険を利用する際、気を付けるべき点もあります。
1.要介護認定が認められない場合もある
公的介護保険を申請しても、必ず要支援・要介護認定が得られるわけではありません。介護認定審査会が、提出された調査結果や主治医の意見書に基づいて、所定の条件が満たされないと判断した場合、認定を受けられない(非該当)可能性があります。
不認定(非該当)となった場合でも、本人や家族が実情と一致していないと感じているなら、再申請も可能です。ただし、再申請しても必ず認定されるとは限りません。
2.要介護認定は12ヶ月ごとに見直しが行われる
要支援・要介護認定は原則として12か月(新規・変更申請:6か月)ごとに見直しを行います。一度、要介護・要支援が認定されたら、一生認定の効果が続くわけではありません。
引き続き公的介護保険を更新したい場合は、有効期間満了の日の60日前から更新申請が可能です。その際、要支援・要介護者の心身の状態が変わったならば、要支援・要介護度が変更される場合もあります。
なお、本人や家族が心身の状態に変化を感じたなら、有効期間終了前でも区分変更申請が可能です。
公的介護保険と民間介護保険の違い
公的介護保険と民間介護保険の違いを、「保障内容」「保険加入」「給付条件」の3つの項目で比較してみましょう。
項目 | 公的介護保険 | 民間介護保険 |
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保障内容 | 現物給付 ※介護サービス費の7割~9割を保険給付 | 現金給付 ※契約で定めた給付金額を支給 |
保険加入 | 40歳以上 ※自動的に加入 | 任意加入 ※各人が必要と判断したら加入 |
給付条件 | 要支援・要介護認定を受ける | 生命保険会社の設定要件に合致する必要がある |
最も大きな違いは、公的介護保険は介護職員等の介護サービスを直接受けられる「現物給付」なのに対し、民間介護保険は一時金や年金という形でお金を受け取る「現金給付」となる点です。
例えば、自費で介護サービスを頼む場合、民間介護保険で受け取ったお金があれば、その費用に回せます。
公的介護保険に関するよくある質問
こちらでは、公的介護保険のよくある質問について取り上げましょう。
公的介護保険の自己負担分をまかなうためには?
公的介護保険では、かかった費用の1割~3割を自己負担する必要があります。介護が必要な本人・世帯員の所得によっては3割負担となり、自己負担分が大きくなってしまいます。
この公的介護保険の自己負担分をまかないたい場合、民間介護保険の加入を検討しましょう。契約の際に決めた給付金額(介護年金・一時金)が、所得に関係なく受け取れます。
また、給付金が余ったら使途は自由なので、家族の生活費やレジャーのための費用に利用しても構いません。
公的介護保険の相談先はどこ?
公的介護保険の疑問点の相談先は市区町村役場が窓口です。主に介護保険課・福祉課等がその役割を担います。
また、地域包括支援センターでも相談を受け付けている場合が多いです。地域包括支援センターとは、市区町村役場から委託を受けた公的な相談窓口で、高齢者の方々をさまざまな面から総合的に支える目的で設けられた施設です。